日本でも大ブームを巻き起こしたボヘミアン・ラプソディの最多4冠、マイノリティーのパワーなども注目された 第 91 回米アカデミー賞ですが、並み入る話題作を抑えて作品賞を射止めたのはピーター・ファレリー監督の「グリーンブック」でした。
グリーンブックは日本においても上映中で、早速多くの方たちが映画館へ足を運んでいるようですが、同作は1960年代当時のアメリカに存在した「差別問題」にフォーカスしているため、事前知識のない日本人が見るとピンとこない部分があるともいわれていますね。
特に各種SNS等をチェックすると、「シャーリーが白人男性と共に、裸で拘束された理由が分からない」との投稿をよく見掛けます。
そこで今回は、該当シーンに込められた意味や時代背景について詳しく考察してみることにしました。
「グリーンブック」とはどのような作品なのか
グリーンブックでは、粗野な白人運転手とインテリ黒人音楽家が、差別意識の根強く残る米国南部をツアーで回る姿が描き出されています。
いわゆるバディ(仲間・相棒)もののロードムービー(主人公が自宅や故郷を離れ、各地を旅しながら、旅の過程で成長や変貌を遂げていく映画)であり、アメリカ映画の「良き伝統」にのっとった作品ですね^^
同作においては、粗野で貧乏で黒人への差別感情を持つトニーと、差別される側の黒人でありながらエリートでリッチ&インテリ、そしてファッショナブルなシャーリーの「対比」に焦点が当てられます。
妻や子供だけでなく親戚一同とわいわい暮らすトニーと、凝ったインテリアの瀟洒な部屋に住む孤高の人シャーリーといった具合に、あくまでも「真逆」の個性を持った2人が少しずつ距離感を縮めていく様が物語の軸として描かれるわけですが、それだけの要素ではただのありきたりなストーリーになってしまいます。
そこに「人種差別」という重大なエッセンスを加えている点が、グリーンブックのキモといっても良いでしょう。
過酷な時代に心を通わせた二人の真のなる「関係性」
『グリーンブック』について「正反対な2人が仲良くなる話が好き」みたいなこと言ったら「ふたりはプリキュアじゃん」という指摘を受けた。た、確かに!『グリーンブック』はマハーシャラ・アリとヴィゴ・モーテンセンの『ふたりはプリキュア』…!! pic.twitter.com/A4I6NCsY8f
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) 2018年12月14日
そして、これはネタバレ要素を過分に含むのですが、登場する2人の間には単なる友情ではなく、「同性愛」的な感情が存在したと考えられます。
シャーリーに奥さんとの離婚歴があることや、2人が拘束されたYMCAというクラブがいわゆる発展場としての「裏の役割」を果たしていた等の背景からも、同性愛の要素を読み取ることができるんですよ。
なお、映画の舞台である1962年当時、公民権運動が盛んになってきているとはいえ黒人差別は未だひどく、ことアメリカ南部の各州では公衆トイレ・バス・レストラン・ホテル等が「白人用/黒人用」に区別されているほどでした。
黒人が知らないうちに「白人用」を利用してしまえば、待っているのは熾烈を極める暴力です。
そこでグリーンという名の黒人が、黒人でも利用できる宿やレストランを掲載したガイドブックを自費出版したのですが、この本の名前こそが「グリーンブック」というわけなんですよ。
そんな当時の状況において、黒人と白人の同性同士が愛を育むなんて、周りの反応がどれほどひどいものであったかは想像に余りあります。
それゆえに登場人物の二人は「辱め」の意味を込め、裸で警察官に拘束されてしまったんですね。
こういった細かいニュアンスは、実際にアメリカという多民族国家を生き抜く人たちや、今も残る差別を体感したことがある層にこそ、胸に迫る部分があるのかもしれません。
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